北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー

北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー北斗語り北斗語りとは

日本マンガ史にその名を刻む名作「北斗の拳」が2013年、連載開始「30周年」を迎える。
この記念すべき年を意義あるものにすべく、原作の公式親善大使が豪華ゲストを迎えて対談。
これまで語られてきた北斗、語られていない北斗。
北斗に魅せられし者たちが届ける大型新連載、愛深きゆえに行われる。

西村繁男

西村繁男

VOL16西村繁男

──なるほど。そういう意味ではストーリーの完成度をも底上げさせたわけですね。絵に加えて、武論尊先生の原作もすごいわけですから。

そう。北斗の拳はね、活字。つまり小説として出したとしても、しっかりした作品になるんですよ。

──はい! 大人になって読んでも泣ける、あるいは大人になったからこそ分かる。それこそが魅力かと。

それはやはり、子供だましの作品ではなかったからなんです。少年誌だからこの程度でいいだろうっていうストーリーじゃなかったから、連載が終わって25年とか経っても、必ずどこかで目にするというね。

──むしろ読む年齢によっていろんな解釈ができるから贅沢ですよね。

そういう意味では、子供たちの目を肥えさせた作品というかね。マンガを敬遠していたお母さんたちが、いつからか「ジャンプは大丈夫」って言うようになっていきましたしね。

──あ~。たしかにそうですね。僕の母親も最初は「そんな残酷なものを読んじゃダメよ!」って怒ってたんですけど、僕が本気で泣いたり喜んだりしてて、あと、アニメが始まった時に父親も一緒に観てくれて、感覚を共有していたというか。そういうのがあって、気づいたら母親も文句を言わなくなりましたね。

そうなんですよ。編集サイドとして暴力性なんかには神経を尖らせてましたけど、北斗で言えばその先にあるものはなんだと。子供だからこの程度に抑えてという感覚は僕は許せなかったですからね。

──僕は西村さんにも心から感謝をしなければいけませんね。北斗の拳をジャンプで連載させてくださって本当にありがとうございます。

いやいや。結果として僕がその時代にいたのは事実ですが、北斗で言えば堀江君が物語の骨子を作ったりしてるわけでね。僕自身は作者と作品をコーディネートする側で、なにもしてないんですよ。逆に自分が編集長をやったりした時代に、そういう作家さんやマンガ家さんと出逢えたことに幸せを感じますよね。

──でも。それでも僕は西村さんに感謝します。北斗の拳には、まるで原作と同じように、関わった漢たちの奇跡的な出会い、つながり、宿命があると思うんです。だから西村さんもまた僕の人生の恩人です。

そう言われると嬉しいですね。良かったらこのあと、終わってから少しやりますか。いろいろ話してると懐かしい気分になってきてね。もう飲んでもいい時間でしょう?

西村さんは、手でグラスを飲む仕草をし、私を誘ってくださった。ホテルのラウンジで「シーバスのロックをダブルで」と注文された。シーバスはスコッチウイスキーである。酒好きの自分ですらあまり飲まないものをロックで飲まれる。もちろん私も同じものを頼んだ。76才という年齢でありながらタバコを吸い、ロックのシーバスを傾けるその姿は、物静かだが本当に格好いいと思えた。
たとえ編集長であっても、表舞台には出てこない。もしかすると多くの読者の方にとってはピンと来ない人だったかもしれないが、西村さんがいたことによって生まれた作品は数知れない。マンガが大好きな私たちにとっては、ある種の「父親」のような存在なのではないか。やはり読者としては、感謝のひと言しかない。

北斗語り…ここに終了。読んでくれた、関わってくれたすべての皆さんに感謝──。

 

ラストピース後編の掲載と共に親善大使としての「伝承」を終える
北斗の拳30周年に華を添えるべく、企画書を書いて編集部に提出。そこから連載させてもらうことになった「北斗語り」。初回の武論尊先生から最終回の西村さんまで、本当に多くの方々とお話しをさせていただいた。普通に生きていたら話すどころか会うことすらできないような方々と熱い話をさせていただいた。そこで感じたのは、立場こそ違えど、全員が北斗の拳に魅せられた「北斗の子」であったということ。それぞれの方がそれぞれの想いで、楽しそうに、嬉しそうに北斗を語っていた表情。私はそれを一生、忘れない。

再び立ち上がったケンシロウ その生き様と今日までの感謝を胸に
そして、なによりこの連載を読んでくださった読者の皆さん。皆さんにも心から感謝してます。そして最後に、ケンシロウの言葉を借り、言わせていただきたい。今後も私は、北斗の拳・公式親善大使の宿命を抱いて生きていきたいと思います。

様々な立場の語らいを魅せてくれた偉大なる伝承者…“北斗の子”たち
こちらが、当連載「北斗語り」を彩ってくださったすべての皆さま。まるで北斗と南斗…歴代の漢たちを並べたかのような豪華さである。今年で生誕31年目となった日本マンガ界が誇る名作『北斗の拳』。その偉大さは、ここに名を連ねる人たちの顔ぶれを見れば、多くを語る必要など無いだろう。これは、もはや一子相伝ならぬ“多子相伝”だ。

Interviewer ガル憎
フリーライター。1974年1月4日、広島県に生まれる。北斗の”第一世代”とも称される生粋の団塊ジュニアかつ原作の公式親善大使で、広島東洋カープファン。原哲夫らとの交流も深く、映画「真救世主伝説 北斗の拳 ZERO ケンシロウ伝」のエンドロールにも名を刻む。好きなキャラクターは、トキ。