北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー

北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー北斗語り北斗語りとは

日本マンガ史にその名を刻む名作「北斗の拳」が2013年、連載開始「30周年」を迎える。
この記念すべき年を意義あるものにすべく、原作の公式親善大使が豪華ゲストを迎えて対談。
これまで語られてきた北斗、語られていない北斗。
北斗に魅せられし者たちが届ける大型新連載、愛深きゆえに行われる。

西村繁男

西村繁男

VOL16西村繁男

北斗の実力を見いだし
北斗の連載を決定した男!伝説の3代目ジャンプ編集長、
語り明かし!!
日本漫画史にその名を刻む『北斗の拳』が、昨年夏で連載開始「30周年」を迎えた。その記念すべき年に立ち上がったひとりの男。北斗に惚れ、北斗に人生を捧げる公式親善大使が、特別連載として「北斗を愛した者たち」と対談。これまで語られてきた北斗、語られてこなかった北斗。
31年目を迎えた今年も〝伝承”を続ける企画の名は…。
北斗の拳30周年に際して、原作の公式親善大使として「なにか形に残るもの」を生み出したい。そんな想いから始めた当連載。ズバリ…今回が最終回。その理由は、ひとつ。30周年の目玉となる新エピソードがこの号で完結するからだ。原作の後に我が存在など無し。ラストピースが埋まり北斗の拳が“完成”する今月号こそ我が北斗語りの最後。これ以上に贅沢な最終回など無いのだ。
そんな中で、最後の最後を締めてくださる今回の語り相手。写真や名前を見てピンと来ない人も多いかも知れないが、今回の語り相手は、北斗の連載が始まった時に週刊少年ジャンプの編集長をされていた西村繁男さん(※1)。マンガ、出版業界では知らない者がいないと言われる伝説の人である。原先生や武論尊先生は言うまでもないが、連載にゴーサインを出した西村さんもまた、北斗誕生に絶対に欠かせなかった人物なのである。そしてまずは、今回の新エピソード。その原稿のコピーを渡して西村さんに読んでいただいた。

【※1】西村繁男
1937年5月31日生まれ。『週刊少年ジャンプ』第3代編集長。編集者時代に本宮ひろ志氏を発掘、小学生読者の獲得を狙った『キン肉マン』を連載させるため、作者であるゆでたまご氏の親を説得しに大阪へ出向き、漫画界入りへの足がかりを作るなどした。武論尊氏に原稿用紙の書き方を教えるなど、多くの作家を見出した。

──ガル憎(以下略)西村さん、こちらが25年ぶりの原稿になります。

西村繁男(以下略)へえ~。巻頭カラーで始まるんだねえ。

──そうなんです。巻頭カラ17ページ、全88ページで今回が前編。僕も読ませていただきました。

そうか。そんなに経つんだねえ。25年ぶりに描いたんだねえ…。

西村さんは、おもむろにポケットからタバコを取り出し、火をつけて1枚1枚、原稿を読み始めた。私はそのまなざしを見つめていた。そこから数分間の沈黙。そして…。

……いや~。いい絵だよねえ。力が入ってるよ、これは。

柔らかく、ゆっくりとした口調ではあったが、西村さんの言葉には、なんとも言えない重みと説得力のようなものがあった。原哲夫という新人に連載をさせた張本人。もちろん当時と比べるとお年を召されているわけだが、その眼力には、かつてトキの表現として用いられた「静かなる巨人」という言葉が似合った。

──ちなみにこれは完全な完成原稿ではなく、現時点での最新版ということなんです。僕は完成原稿だと思い込んで読み、なんの違和感も無かったのですが、まだ原先生のOKが出ておらず、ここから微調整や修正が入るらしくて。

いま、信長も一生懸命に描いてるわけでしょう。そんな中でこんなに力を入れて描くのは久しぶりじゃないの?

──ええ。いくさの子にも全力で取り組んで、さらにファンが期待して待っている北斗の拳も描く。心血を注ぎ命懸けで描いておられます。

そうだねえ。しかし30年も経ったとはねえ。本当に早いねえ。

──当時9才だった僕が40才になったので、僕の場合、人生の78%くらいが北斗なんですが、早いですね。

西村さんは、丁寧に原稿を読まれていた。本になっていないので1枚1枚がバラバラなのだが、それを手でめくり、たとえば2枚めくってページを飛ばしたりしても、1枚を戻してゆっくりと。なんというか、誠意をもって読んでいる…そんな表現をしたくなるような読み方だった。そして読み終えてから、ひと言。

いや~。すごいねえ。いいものを見せてもらいました。

──原先生が聞いたら本当に喜ばれると思います。西村さんのお墨付きもいただきました…と。

北斗ファンはもう、ビックリするんじゃないかな? 本当にいいねえ。

──当時の画風と違う。逆にそれが見どころというか。いまの原先生が描く北斗…。やはり贅沢ですね。

個人的には、当時のジャンプの編集長だった西村繁男という人が自分の目の前で北斗のラストピースを読んでいる。それだけでも充分すぎるほどに素晴らしい体験、まさに感無量であったのだが、言うなればここからが本番。現在の北斗ではなく連載前や連載当時の話。北斗語りの最終回を飾る語らいの始まりだ。