北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー

北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー北斗語り北斗語りとは

日本マンガ史にその名を刻む名作「北斗の拳」が2013年、連載開始「30周年」を迎える。
この記念すべき年を意義あるものにすべく、原作の公式親善大使が豪華ゲストを迎えて対談。
これまで語られてきた北斗、語られていない北斗。
北斗に魅せられし者たちが届ける大型新連載、愛深きゆえに行われる。

原哲夫

原哲夫

VOL11原哲夫

──では、今度は少し掘り下げた話をしたいのですが、北斗を描いていて悩んだところ…ここは苦しかったとか迷ったとか、そういうものは?

命懸けで描いてたから苦しかったのは5年間ずっとだけど、最後の最後まで悩んだのは…ユリアかなあ。

──つまり、ユリアが生きていた話ですね? あれは驚きました。

でしょうね。なんせ、僕自身がそうだったんだから。マジかよ、みたいな。

──では、どういう経緯でそのアイデアを受け入れたんですか?

原作でね、その部分を1年かけて納得できる形に持って行くと。

──なるほど。しっかりとした着地点を作るからと。

ただ、頭の中で、人気が下がったら10週で打ち切られるという当時のジャンプのルールが離れなくて。過去にそれを体験してる身だから。

──でも、先生。読者の単純な考えで行けば、すでに北斗は不動の地位を築いてたんで、そこは大目に見てくれそうな気もするのですが。

そういうことじゃないんだよね。そもそも大目に見てもらうものを描いちゃダメなんですよ。僕には読者の人を納得させる責任があるんで。だから構想が1年だろうと2年だろうと、まずは目の前の10週で人気が維持できるかが問題で。

──すいません。まったくそのとおりです。では、どういう形でユリアと将が結びついたんですかね?北斗には後付けの要素も多いですが、この場合は…。

1年分の構想があったんで、これに関しては先に決めました。ユリアを生き返らせるために、まず将というキャラクターを作ったんです。

──なるほど。後に読者には南斗最後の将がユリアであることを伝える。ただ、それまでは分からないように描く。

そう。読者の人を納得させるための準備をした。まずは南斗五車星が出てきて、やがてユリアに結びついていくとか、そういう部分を。

──まさかヒューイやシュレンがあんな秒殺で終わるとは思ってませんでしたけど。ただ、そういうキャラでも先生は手を抜かない。ヒューイもジュウザも、全員が同格。そういうつもりで描かれたんですよね?

そうですね。僕は登場人物を差別するようなことはしないんです。ヒューイもシュレンも、メインキャラクターのつもりで本気で考え、描きました。

──でも、ユリアと分かった時は「え~~っ!」ってなりました。厳密に言えば、ユリアが生きていた驚きと将が女性だった驚き。ラスボスみたいなイメージを持ってたんで。

とにかく悟られないように注意しながら描いてましたからね。

──ユリアと分かって、慌ててバックナンバーを読み返しましたから。

読み返すというのは?

──たとえば、将が部下と話すシーンがあるじゃないですか。正体を知らない奴がその会話を聞いたらバレるだろ、みたいな。声で「あれ? あの声って…女じゃね?」と。そういう部分が無かったかを探してました。

へえ~。面白い読み方だね、それ。

──現代なら、すぐにネットでバラされますね。ツイッターで「将の正体はユリア。拡散希望!」って。

はははは。でもまあ、そこが漫画の良さですよね。音が無いんで。

──ええ。将が「ケンシロウ…」とか言ってても、頭の中ではラスボス的な男の声が浮かんでるんです。でも読み返すと男でも女でも、どっちでも成立するセリフになってる。こっちが男と思い込んでるだけで、じつはそんなに背が高くないように描かれたりしてるとかも(※4)。

【※4】
読者の多くは南斗最後の将=男と思い込んでいたわけであるが、左のシーンなどを見ると、左後ろにいる男よりは背が低く、右後ろにいる女性とほぼ同じ身長…という具合に細かな部分で「将=女性」という描写が行われていたのがよく分かる。中でもセリフに関しては漫画の特性を生かした見事な手法だったと言えるだろう。

ある意味、五車星と同じように正体を隠してたよね、僕の方も(笑)。

──武論尊先生も「あれは賭けだったよね~」と言われてましたが、結果的には五車星、なによりジュウザやフドウがいたからこそ、ケンシロウとラオウの最後の闘いもより壮大なものになった。

そうなんです。そこが僕の言う納得の部分ですね。1年の構想の中にしっかりした骨組みがあった。結果的に上手くいったし、いいキャラクターが描けたんで納得してますよ。

──あそこでもし先生が断固として反対していたら、ジュウザやフドウのような人気キャラは生まれなかったわけで、さらに言えば、今回の新エピソード。ジュウザに息子がいたという設定も無かった。ユリアが生きてて、本当に良かったです。

そう言われると本当に救われますね。大きな賭けに挑んだので。