北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー

北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー北斗語り北斗語りとは

日本マンガ史にその名を刻む名作「北斗の拳」が2013年、連載開始「30周年」を迎える。
この記念すべき年を意義あるものにすべく、原作の公式親善大使が豪華ゲストを迎えて対談。
これまで語られてきた北斗、語られていない北斗。
北斗に魅せられし者たちが届ける大型新連載、愛深きゆえに行われる。

原哲夫

原哲夫

VOL11原哲夫

──先生。お言葉を返すようですが充分に上手かったと思います…。

でも、似顔絵じゃなくて原哲夫の絵だったんだよね、やっぱり。ただそういう遊びの要素みたいなものは大切にしてました。いまだと割とタブー視されちゃうんだけど。

──遊び! 先生。じつは、次にその話をしたかったんです。先生が取り入れた遊びの代表例として、断末魔がありますよね。あべし、ひでぶ、派手なのだとケンシロウがジャギの手下の頭にノコギリを入れて、ザクザク引いて「ぱっびぶっぺっぽおっ!」。

うんうん。あれはね、本来ならノコギリが頭に刺さった時点で絶命してるはずなんですよ。でも、僕のイメージとしては、まだ脳が生きてる。

──あれですかね。アジの活け造りがピクピク動いてるような状態。

そうそう! あの痙攣みたいなイメージね。〆切直前に思いついて。ちょうど絵に合うなと。ノコギリを引くリズムと言葉がピタッとハマって。

──脳としては「あれ?」と思ってるんだけど、思って絶命しようとしてるところでノコギリを引くから…。

ぱっ、び、ぶっ、ぺっ…ぽおっ!(笑)

──「ぽおっ!」でようやく絶命。

これってね、言葉の響き的な遊び心は入ってくるんだけど、狙いはリアリティの追求だったんですよ。たとえば、熱いことを知らずに置いてあるアイロンなんかを触ると「熱い!」なんて言わずに「はちっ!」とか、言葉として成立しない奇妙な声が出るでしょ?

──あ~。なるほど!

それを追求したかったんです。アミバの「うわらば!」は「うわ~」って落ちてて、最後の最後に「らばっ!」で死んじゃう。普通は言わない「らばっ!」で。

──北斗の断末魔は、そうやって分解したり直前のセリフを見たら分かるんですよね。ひでぶ、とかもひと言じゃないんで。

あれは「痛え!」が「ひでっ!」みたいになって、その直後に「ぶっ!」…と。そこの瞬間を表現したかった。誤植という説が何年もあったけど、あれは本当にこだわって意図的に考えましたから。

──原先生の字が汚くて担当編集が間違えた誤植だとか、原先生が狙って書いたものだとか、数10年に渡って議論されましたよね。これで長年の謎が解けたと思います。

あと、人を殺すんで、本来であれば後味が悪いじゃないですか。だけど少年誌なんで、そこでスカッとさせないといけないんで。残虐性より爽快感の方が上回るというね。

──ある種、そこが救いになる。でも結果として、それが北斗の代名詞になった感はありますが。

あ~。断末魔がね。原作を知らない女の子も「ひでぶとか叫んで死んじゃうんでしょ?」とか言うもんね。

──だから、少し旬を逃した話にはなりますけど「半沢直樹」。あれも同じだと思うんですよ。倍返しも。

うんうん。あれはね~。やられちゃいましたよね。あの感覚、しばらく忘れてたな~って。でも、僕らがやってきたことって、あれなんですよね。

──倍返し。もうそのひと言で半沢直樹ですもんね。でも、あのセリフが無かったら、もしかすると普通の銀行ドラマだったかもしれない。

そう。まさに、それなんですよ。僕がやってきたことは。最後の100倍返しまで行くと笑っちゃうでしょ?

──あははは。そうですね。100倍ってオイ、みたいな。

でも言ってほしいんだよね。見てる側は100倍は大げさだと思っていても言われるとスカッとする。水戸黄門の印籠みたいなもので、王道。

──ええ。来るぞ。来るぞ。はい、出ました! という感覚ですね。

しかもあれは、マジメなサラリーマンからの変身なんですよ。それを言った瞬間、ヤクザに変身する。

──あ~。なるほど! 鬼になるというか。家での愛妻家の姿からは想像もつかない執念を見せる。

そこも大きいですよね。愛妻家という描写が無ければ、単なる執念深いサラリーマンに過ぎなかった。