北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー

北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー北斗語り北斗語りとは

日本マンガ史にその名を刻む名作「北斗の拳」が2013年、連載開始「30周年」を迎える。
この記念すべき年を意義あるものにすべく、原作の公式親善大使が豪華ゲストを迎えて対談。
これまで語られてきた北斗、語られていない北斗。
北斗に魅せられし者たちが届ける大型新連載、愛深きゆえに行われる。

天野ひろゆき

天野ひろゆき

VOL09天野ひろゆき

──連載が始まった時って、スゴい衝撃を受けませんでした?

原先生の絵のインパクトは、ちょっと尋常じゃなかったね。後に原先生とお会いして、1枚の絵ですべてを語るような、そういうマンガ家になりたいって聞いて納得したけど。

──なるほど。マンガというカテゴリなんだけど、極端に言えば1コマで分からせてやりたい…的な。

海外でスゴい筋肉を描くイラストレーターがいて「これを見て僕は目覚めたんです」みたいな感じで1枚の絵を見せてもらったんだけど、もうほとんど北斗の拳だった。

──あっ! それ、フランク・フラゼッタですよね!(※4)

【※4】フランク・フラゼッタ
SFやファンタジー分野の挿絵などで活躍した、アメリカのイラストレーター。1928年2月9日生まれ、2010年5月10日没。英雄コナンシリーズやターザン・シリーズなどヒロイック・ファンタジーの絵で人気を集め「史上最高の筋肉絵師」とも評された。彼の絵を見ると、北斗の世界観にどれだけの影響を与えたかが分かる。
発行:Underwood Books; Reprint版Frank Frazetta (著), Arnie Fenner (編集), Cathy Fenner (編集)

そう! そんな名前だった! 1枚の画なんだけど、筋骨隆々としててウイグル獄長みたいな奴ばっかりいる絵なんだけどね。原先生が「僕は話を考えるのは苦手です」って言われた後に「だけどこの絵。たった1枚の絵だけど考えさせられる。他のどんな手段より雄弁なんですよ」と。

──お~。雄弁。なるほど。描き込み度合いがハンパじゃないから、1枚の絵でもバックボーンや物語を深いところまで考えられる。あるいは絵そのものがそれを物語っている。

たくさんの文章があるより1枚のインパクト。だからめっちゃ描き込むようになっちゃったんですよね。

──事実、北斗の拳から日本マンガのタッチが変わりましたしね。劇画タッチだったり、劇画まではいかなくてもリアルな描写だったり。

そう。原先生のオフィスにお邪魔した時も、鉛筆の数が尋常じゃなくてビックリしたもんなあ。

──そう! そうなんですよね。使い終わったものを入れてるのかって思うくらい、ペン入れの中に鉛筆なんかが入ってて。まるで割り箸を詰め込んでる定食屋みたいな。

あはは。例としては失礼だけど本当にそんな感じ。綺麗に削られた鉛筆が綺麗に入ってる。あれは驚いたというより感動したなあ(※5)。

【※5】
原先生のデスクを撮影した実際の写真。この圧倒的な鉛筆の数は「原先生のこだわりの数」とも言えるのではないか。

──ええ。鉛筆だけでも2BとかHとか種類が多くて。あと、それぞれみんな長さが同じになってて、少しでも短いともう使わないとか。

そういう何千本のペン、鉛筆から選んだものを使って描いてる。でも俺らは毎週ただ読むだけじゃない。下手すりゃ寝て鼻クソほじりながら。

──たしかに。当たり前のようにパパパっと読んだりする時ってありますもんね。

そう。でも、その1コマ1コマがどれだけ大変かっていう話でね。

──以前「マンガ家として死ねるなら本望と思って始めたけどマンガを描いて本当に死にそうになるとは思わなかったよ」と言われてましたね。

うんうん。でも、どれだけの想いで描いてたか、絵を見ても分かるけど、話を聞いてもっと分かって、やっぱりこれは語り継がれるなって思った。

──ええ。語り継がれてしかるべき心血が注がれてますもんね。

あと、ギャグ性だよね。セリフとかコミカルなキャラ。コマクとか(笑)。

──おお。コマク!(※6)

【※6】コマク
アクの強いキャラとして語り継がれるユダの手下。

ダムを決壊させて毒を流し込もうとしてたんだけど、ケンシロウが登場して蹴られちゃう。

──冷静な顔で「こんなところで出すんじゃない」って言われて。

あれ、いちばんノッて描いてる時期のひとつだって言ってたなあ。そういう描写は原作に足したり膨らませたりするところだから、割と自由に遊んでるというか。

──でも、天野さん。それって、読んでる時にギャグテイストだと解釈してましたか? コマクの間抜けな死に方もそうだし、あとは断末魔。有名どころの「あべし」系、あとは「ぱっびぶっぺっぽおっ!」とか(※7)。

【※7】ぱっびぶっぺっぽおっ!
ジャギの胸像の前に民衆を集め「あのお方の名を言ってみろ!」と凄んでいたジャギの手下。名前を言えなかった民衆にノコギリを持たせ他人の首を切らせるという残虐行為を行っていたが、現れたケンシロウに脳天からノコギリを入れられ最後に「ぽおっ」の断末魔を残し死んでしまう。

ぱっびぶっぺっぽおっ! たしかにそのあたりは「死ぬ時にそんなこと言わないだろ」程度だったかなあ。

──ギャグと解釈、もしくは認識しないというよりは、そんなつもりで描いてるとは思ってなかった的な。

やっぱり描写がエグいし、少年誌というのもあったから、自然とそういう部分にギャグの要素を入れるぐらいの感覚だったかもしれないね。

──ええ。大人になってからは「ここ遊んでるな~」とか分かるようになったんですけどね。

うんうん。大人になると、ストーリーの深さが分かって来るよね。