──タイトルが『北斗の拳』だから北斗。主人公が会得したのが北斗神拳だから北斗。先生、どうやら僕はそこに縛られていたようです。
冷静に考えたら南斗ですよね。そもそも数が圧倒的に違う。数が違えば知名度も違う。当時の人々は『南斗聖拳こそ最強の拳法』と考えていた可能性が極めて高いワケですよ。つまり、ラオウが拳王と名乗っても『誰そいつ?』となった可能性が高い。
──はいはい。下手すりゃ『最強の南斗に抵抗して北…北斗かよ』と馬鹿にされてた可能性すらありますね。
しかも、南斗最強と言われるサウザーは聖帝十字陵まで作って己の権力を徹底的に誇示してる。言わば『表の帝王』。そうなると、みんなが最強と思っていたのはサウザーなんじゃないか? なぜならサウザーは本名を使ってる。しかしラオウは拳王と名乗り、誰もその実態を知らないと言われていた。となると、互いに世界制覇の野望は持っているんだけど、戦略というものは大きく違うハズですよね。パフォーマンスを繰り返すサウザーと、謎多き拳王では。
──いや～。面白い。かなり面白いですよ、この話。長くなってもいいんで続けましょう。引き続き!
じゃあ遠慮なく（笑）。拳王は黒王号という馬に乗ってるでしょ？ あの当時、バイクも車も一応あるじゃないですか。なのに、わざわざ馬に乗る。それはつまり『象のように大きな馬に乗った本名の分からない恐ろしい男』という自分のイメージ戦略ですよね（※5）。
【※5】
自らを「拳王」と名乗るラオウの初登場シーン。象ほどの大きさのある黒王号に乗ったその姿は、兜、マント姿などの容姿も相まって、それ見たリンが本能的に身体を震わせるほどの恐怖感を与えた。それまでのラオウとは明らかに違う冷血な表情、感情すら捨てたような不気味さが、恐怖の覇者としての風格を強大なものにした。
──たしかに。ラオウの名を捨てて拳王になってからは、より神秘性のある雰囲気を出してますよね。
サウザーは正反対。民衆を土下座させて並ばせて、ど派手な大型バイクに乗って行進する（※6）。しかも自分は運転せず偉そうに、ふんぞり返って。
【※6】
バイクに引かれた巨大な花車。その後方、最上部に鎮座する圧倒的インパクトで登場した南斗鳳凰拳のサウザー。不敵な笑みと自信に満ちあふれたその姿は、まさに南斗最強の男である証。トキのみが知っているという身体の謎を利用し、ケンシロウを初戦で敗北させた稀少な存在。なお、目を覆っている黒いフチ取りは刺青である。
──もしかするとサウザーはヤンキー気質なんですかね? 総長しか乗れない特別なバイク…みたいな。
そうそう! サウザーはヤンキー的なんですよね! 自分の存在を必要以上に世にアピールしたり。
──目の前で手下に火炎放射器を持たせ、好き放題にやらせてる（※7）。それを見ながら、ドヤ顔ですもんね。まるで『俺の悪さが際立つからどんどんやれ！』と言ってるような。拳王の部下も質が悪いんだけど、威張ってるのは拳王がいない時だけで、拳王が現れた途端、急にビシっとして忠誠心を見せまくる。
【※7】
現作に登場する多くのザコのセリフの中でも特に有名な「汚物は消毒だ～!!」という言葉を放った聖帝軍の男。火炎放射器で民衆を威嚇しながらサウザーのために道を空けさせるも、突如として現れたケンシロウに「汚物は消毒すべきだな」と言われ、逆に自らが燃やされてしまう。