北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー

北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー北斗語り北斗語りとは

日本マンガ史にその名を刻む名作「北斗の拳」が2013年、連載開始「30周年」を迎える。
この記念すべき年を意義あるものにすべく、原作の公式親善大使が豪華ゲストを迎えて対談。
これまで語られてきた北斗、語られていない北斗。
北斗に魅せられし者たちが届ける大型新連載、愛深きゆえに行われる。

若杉公徳

若杉公徳

VOL04若杉公徳

──先生は1975年生まれ、自分は1974年生まれ。いわゆるジャンプの黄金世代で、キン肉マンも大好きだとお聞きしています。

とにかくジャンプが楽しみで仕方ない日々でしたね。月曜日が。キン肉マンもそうなんですけど、載ってるマンガは全部、ほとんど好きでした。

──ちなみに、そこからマンガ家を目指すようになった流れは…。

最初はキン肉マンですかね。授業中とかも頭の中で「アイツとアイツが闘ったらどうなるかな」とか、そんなことばかり考えてて。気づいたら自分で描くようになってましたね。

──僕と似てます。僕は物語こそ考えてなかったと思いますが、キン肉マンとか死ぬほど描きました。

キン肉マンの後に北斗の拳、ドラゴンボールが来たじゃないですか。だからそれを混ぜたマンガを描いてましたよね。ジャンプミックス的な。

──小学生のころから、そんな豪華なコラボをされてたんですね。

そうですね。頭の中で妄想してることを絵にする楽しさみたいな。

──僕は怪物くんとか、いわゆる藤子不二雄作品から入り、それが描けるようになり、今度はキン肉マンが描けるようになり、そうこうしてる内に始まった北斗の拳が…こんなもん描けるかバカ! みたいな(笑)。

ははは。そうですよね。子供に描ける絵じゃないですよね。

──でも…描きたくなっちゃう。

なっちゃうんですよね~。あの質感っていうか。とにかく、線が多いじゃないですか。顔や筋肉の影とか。

──なんか、描いてるだけで上手くなった気がするんですよね。斜めに線を何本も描いて濃淡をつけて。

分かります。あの掛け網みたいな感じをマネしたくなるんですよね。

──やった感、ですね。子供の。

だから「KAPPEI」も意識的に、自分のタッチに北斗のタッチを加える感じで描いてるんですけど…ぜんぜんならないですねえ。

──いやいやいや。

もっとこう、重厚感っていうんですかね、そういうのを出したいですね。

──でも、なんて言うんですかね。正式にOKをもらって北斗の世界観を取り入れたマンガを描くワケじゃないですか。純粋に楽しいと思うんです。なんか「自由に北斗が描けるぜ!」みたいな。

そうですね。描いていて、そういう喜びは強いですね。あと、ケンシロウのカッコいいところって、口を開けて喋らないところなんですよ。

──口を開けてない? ああ、言われてみればそんな気もしますね。

喋ってるのに、口がほとんど開いてないんですよ、原作を見てると。

──うわ! それ、言われて初めて気づいたかもしれません!(そう言いながら若杉先生と共に単行本を手に取る)…おお、本当だ!!

これなんか、割と長いセリフなのに口を閉じてるんです。あと、これもそうですよね。ヒョウは口を開いているのにケンシロウは閉じてる。

──すごい! これもだ! こっちもだ! うわ~。完全に見落としてましたよ。すごい着眼点ですね!

それだけは絶対、主人公の勝平に取り入れたかったんです。

──なるほど! たしかに口を閉じてますよねえ、勝平は。

ええ。勝平は絶対に、口を開けない。

──原先生の狙いはきっと、無口さや寡黙さの強調ですよね。顔が語るというか。ヒョウの口が開いてるというのも、つまりは心境の表れ。感情を丸出しにしてるから力も入るし口も開く。でもケンシロウは落ち着いてるから口の動きも小さい。

ええ。そうだと思います。そのイメージが本当に強くて、絶対に取り入れたかったんです。

──いや~。参りました!

──ちなみに、「KAPPEI」にはギャグの要素が随所に散りばめられている感じがするんです。僕が拾い過ぎなのかもしれないですけど、普通のギャグもあれば、それこそ尾崎豊の歌詞を引用していたり。

そうですねえ。いっぱいギャグを入れておかないと不安というか。

──あ~、なるほど。それこそ思いついたものを、どんどん入れる。

そうすれば、どこかで笑ってくれるんじゃないかというイメージで。

──でも、たとえば尾崎豊をネタにするのとか、勇気がいりませんか?

尾崎豊が好きなんですよね。好きだからこそ入れているのもあります。

──はいはい。愛深きゆえに、自分のフィールドに入れていく的な。

ええ。ただ、DMCなんかで言うと逆なんですよね。メタルとか本当に分からないんで。

──そう。僕はそれがスゴいなと思ったんです。デスメタルが大好きな人なのかなと思いきや違う。

どちらかと言うとカヒミ・カリィとか好きなんですよね(笑)。

──まさしくクラウザー様の正体である根岸君のような。

ええ。メタルとか、そういうジャンルは詳しくないんです。ただ、ギャグにする場合、詳し過ぎるとギャグを邪魔しちゃうんですよね。知識があるばかりに「ここでコレやるのはメタル的にナシだよな~」とか。

──なるほど。本線であるメタルという部分には詳しくない。でも尾崎豊とか、そういう脇の部分で自分が好きな要素を入れていくと。

ギャグマンガなんで、ある程度の偏見が必要なんですよね。結局、詳しい場合は偏見で描けないんで。

──ギャグマンガだからこその悩みなのかもしれませんね。ただ、そんなDMCのベーシスト。名前が「アレキサンダー・ジャギ」ですね?(※5)

【※5】アレキサンダー・ジャギ
DMCメンバーの中では最も常識人であり、ロッカー気質も持っている。お調子者だがバンドの将来を考えたりベースの練習に明け暮れたり…と書くと本当の常識人のようだが、あくまでも「DMCメンバーの中では最も常識人」なだけで、合コンにもホスト姿で参加するなど一般的な常識人とズレているところは多分に見受けられる。

あ~。そうですね。もちろん、あれは北斗から名付けました。

──名前からして悪そうですしね。

ジャギは……好きですねえ。

──いつの間にか北斗の兄弟から除外された可哀想な人ですが。

あの「クズ感」がいいんですよね。

──あはははははは! クズ感!

なんかこう…いいんですよね。屈折してるだとか、コンプレックスがあるだとか。それがDMCの和田 (アレキサンダー・ジャギの本名)と合うなと思ってジャギにしました。