北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー

北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー北斗語り北斗語りとは

日本マンガ史にその名を刻む名作「北斗の拳」が2013年、連載開始「30周年」を迎える。
この記念すべき年を意義あるものにすべく、原作の公式親善大使が豪華ゲストを迎えて対談。
これまで語られてきた北斗、語られていない北斗。
北斗に魅せられし者たちが届ける大型新連載、愛深きゆえに行われる。

鯉沼久史

鯉沼久史

VOL03鯉沼久史

──ちなみに、鯉沼さんに確認したいことがあるんです。ラオウの髪の毛の色は、何色のイメージですか?

そうですねえ、銀髪かちょっと黄色はいってるかぐらいですね。

──おおおおおお! それ、俺も同じなんですよ! もっと言えば白銀というか。いや~、良かったです!

基本的に、独自のカラーは作ってないはずです。髪の色とか、そういう部分は過去の作品を見て、ハッキリしなければ先生に聞いてます。

──じつを言うと、パチンコやパチスロの北斗だとラオウは完全に金髪系なんですね。でも原先生にお話を伺った時は、厳密に言うと限りなく白に近い金色あるいは銀色。ひと言で表現すれば白銀だと。

北斗無双のラオウも、そういう色になっていると思います。

──そうなんです。だから北斗無双をやった時に「分かってるなあ!」って感激して。巻頭カラーで先生がラオウの髪を金や青で描いたことがあるのは、たとえば昼間に太陽の光を浴びてれば金髪っぽく、月明かりに当たっていれば青っぽくなる。状況を考えて塗り分けていたと。あのオープニングでラオウに青白い光が当たった時、ちゃんと髪の毛も青くなってるんですよ。もう感動して。

いや~。そこまで細かく見ていただけると本当に嬉しいですね。こちらの作り方としては、シミュレーションをしてるんです。いまの話であれば青い光源を置いていて、リアルタイムにモデル…ラオウならラオウに反映してくれるんです。反射率なども事前に設定していて。さすがにゲーム中はそこまでの余裕というか容量が無いですが、オープニングは細かくやってますね、そういうのを。

──もう、本当に嬉しいです。とにかく僕は、大好きな北斗が汚されるのが本当に嫌なんです。それがゲームだろうとパチスロだろうとフィギュアだろうと、原作のイメージを損なうものは、すべてアウト。たとえばフィギュア。いくら見た目が死ぬほどカッコ良いラオウでも、金髪だったら買わないとか、そんな感じで。

ははは。徹底してますね。

──ちなみに、最も好きなキャラクターあるいはベストバウト。そのあたりも聞かせてもらえますか?

ナンバーワンはトキですね。いつも言ってることなんですが、本当にカッコイイんですよ。自己犠牲というか…。

──まったく同じです。しかも僕がしてるこのネックレス、じつを言うとトキの墓標なんですよね(※6)。

【※6】トキの墓標ネックレス
シルバーアクセサリーブランド「BIGBLACKMARIA」とのコラボで、北斗の拳が25周年を迎えた2008年にリリース。他にも拳王の兜リングやレイのネックレスなどがあり、現在その一部がコミックゼノンオンラインストアで購入できる。ガル憎氏は、トキへの敬意を込めて身につけた模様。
(左/撮影=ガル憎)

…ああ! 本当ですね!

──僕はトキ、シュウ、サウザー、ラオウあたりが好きです。

いいですよねえ、シュウ。割と自己犠牲系に弱いのかなあ? でも、自分に娘がいるのもありますが、アインとかも好きですね、かなり。

──あ~。なるほど。親子の絆みたいな。 アインが、父親が死んだのに泣かない娘のアスカが凄い感動で…。

そうなんですよね。私が泣くとパパが眠れないから…。

──いま僕がお酒を飲んでいて、この話をあと5分も続けると完全に泣き始めます。でも、そのシーンで感動したのって、鯉沼さんが大人というか父親になってからですよね?

たしかにアスカはそうですね。う~ん。やはり、父親になったからですよね。さすがに連載当時、そこまで大人の気持ちが分かったかなと思うと。

──なんか、そういう部分ってありますよね。好きなキャラ、エピソードは山ほどあるけど、子供のころから好きだったのもあれば、大人になって意味が分かるようになったからこそ感動したものもある。 その時、その時で物語の入り方が違うんでしょうね。

そう言われると僕も分かりませんね、どのシーンをいつ好きになったかとか。トキに関してはカサンドラでの初登場シーンのインパクトが強いから、おそらく初期段階で惹かれたかなあ?

──病さえ無ければ。そうそう、だから北斗無双でもトキが途中で咳き込んだりするじゃないですか。

まさにそこなんですけど、病さえ無ければどうなるのか。それが北斗無双でいう若いトキなんですよ。死の灰を浴びる前の。みんなに「病に冒されてないトキはこんなに華麗でこんなに強いんだ」っていうのを体験してほしかったんです。

──鯉沼さん。北斗信者を代表してお礼を言います。そして個人的には北斗無双の幻闘編、あれも素晴らしかったです。こうすればこういう世の中になる。自分が世紀末を平定できる。しかし、それが分かっていながらも最終的には己の宿命…つまり原作どおりに生きて散る。

どこまで許されるか、割と思い切って考えましたね。どこまでがOKでどこからがNGか。それを探る意味合いもありましたけど(笑)。

──サウザーに善の道を歩む可能性があったとか画期的ですもん。原作の世界観を壊すどころか、深みが増した感覚さえありましたよ。

なんか嬉しいですね。苦労して作ったものを、そうやって深く入り込んでプレイしていただけたのは。

──作っている人の本気度が伝わりましたから。そしたらこっちも本気でやりますよね。作った人の熱意をすべて受け止めたいし、受け止めないと失礼になりますから。

ありがとうございます。開発スタッフも喜ぶと思います。

──北斗無双という最高峰の「動く北斗」。僕は生涯、忘れることは無いと思いま……あれ? 結局、俺が宣伝してるみたいになりましたね。そういうつもりは無かったんですが。

ははははははは。でも今日は、本当に楽しかったです。

──僕もです。会えて光栄でした!

北斗の拳「無双化」が生み出した一体感
鯉沼氏や自分たち。いわゆる1980年代”黄金のジャンプ世代”は少年時代、こぞってファミコンをプレイし「静のマンガ」と「動のゲーム」にひたすら夢を見ていた。そんな少年たちが大人になり、かつて夢中になったゲームから離れてしまったことを憂いた鯉沼氏が無双シリーズの題材として選んだのが、他ならぬ「北斗の拳」。武器を使用した豪快なプレイ感が魅力の無双シリーズと「素手」での闘いが本質となる北斗を融合させるために想像を絶する苦労が伴うことになったが、オーラや拳圧、技の切れ味などの迫力を強調することにより、無双が持つ爽快感を見事に表現。これによってプレイヤーは登場キャラたちの拳法を身をもって体感することができるようになったのだ。他ならぬ自分も、ラオウを使っている時は黒王号を乗りこなしながら、必要以上のものまで破壊しながら豪快にザコをブッ飛ばしたりしていた。あの時、間違いなく自分はラオウだった。

それぞれの立場で北斗は「伝承」される。
普段なら簡単にお会いできるような人ではないのだが、実際に会ってみると、やはり鯉沼氏も「北斗の子」。立場を超え、同じ北斗ファンとして楽しい時間を過ごすことができた。自分はこの連載で、そして鯉沼氏は北斗無双で、それぞれの立場で北斗への情熱を注ぎ多くの世代に伝えていく。表現方法は違うが、これが北斗への恩義だ。

Interviewer ガル憎
フリーライター。1974年1月4日、広島県に生まれる。北斗の”第一世代”とも称される生粋の団塊ジュニアかつ原作の公式親善大使で、広島東洋カープファン。原哲夫らとの交流も深く、映画「真救世主伝説 北斗の拳 ZERO ケンシロウ伝」のエンドロールにも名を刻む。好きなキャラクターは、トキ。